2023年11月10日金曜日

森林フィールド講座・琉球編「世界自然遺産の森・人と生きものの暮らし」

 学術研究員の風張です。少し前になりますが、琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド科学教育研究センター・与那フィールドで森林フィールド講座・琉球編「世界自然遺産の森・人と生きものの暮らし」が開催されました。その様子をご紹介します。

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1日目:919

13時半、ゆいレールのてだこ浦西駅に集合。北は北海道から南は九州まで、全国各地の大学から14名の学生が集まりました。ここから大学のマイクロバスに乗せてもらい与那フィールドまで向かうのですが、学生たちは早くもお互いに打ち解けている様子。高嶋先生の解説を時折はさみながら、バスに揺られること2時間半。

 

与那フィールドに到着したら、まずはガイダンス。そして、森や人と自然のかかわりなどについて高嶋先生・松本先生の講義です。やんばるの森は樹木の成長が遅く、台風の攪乱や人の手による伐採の後6070年経っても成熟した森林にはならないのだそうです。そんな森や生態系の保全と人の営みをどのように両立させていけるかを考えるのが、実習の大きなテーマです。学生たちは熱心にメモを取りながら聞き入っていました。今回は、文系・理系のさまざまな分野を学ぶ学生たちが集まっています。どんな感想を聞かせてもらえるのか、楽しみです。


夕食後はYambaru Greenのみなさんのガイドで、与那フィールド周辺の夜の生き物観察に出かけました。目のいい学生たちは足元の小さな生き物を次々に見つけては大興奮!それに対するYambaru Greenさんの一つ一つの解説が面白かったです。そして、やっぱり満天の星空は迫力でした。残念ながらわたしには見つけられませんでしたが、流れ星がいくつも見えたそうですよ!!

   

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2日目:920

午前中は前夜歩いた与那フィールド周辺の森の昼間の様子をじっくり観察。琉球諸島の成り立ちと植生との関係、樹種ごとの特徴と地域の人々による利用、それによる生態系への影響、希少な野生動物の保全と森林利用の両立の難しさなど、森に関するいろいろを学びます。道中、キノボリトカゲや、なんと、木にぶら下がって休憩中のオリイオオコウモリなど沖縄ならではの生きものにも出会い、盛り上がりました。


午後はやんばる野生生物保護センター・ウフギー自然館、辺戸岬経、琉球大学・里山研究園の見学と盛沢山です。ウフギー自然館では、スタッフの方からのやんばるの生態系を守る取り組みについての解説がありました。そのほか、象徴的な動植物についての詳しい展示も面白いです。辺戸岬の展望台からはウミガメの泳ぐ様子を眺めることができ、学生たちは大喜びでした。里山研究園では、生態系を保全しながらやんばるならではの付加価値を生み出す新しい造林について学びます。



途中の鏡地海岸でしばし海遊び。海も砂浜も眩しい…!

「森林フィールド講座」は、北大と琉球大学・高知大学・信州大学・筑波大学・山形大学とも連携して行うシリーズ実習です。夕食後は各大学から協力に来てくれている教職員による演習林・研究林紹介も行いました。その土地の地形や文化を背景とした特色ある取り組みなど、興味深い内容ばかりでした。

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3日目:921

まずは、松本先生の案内で与那フィールドの林冠観測用タワー周辺の森を観察。森の中を散策しながらやんばるの森における物質循環や植生の特徴の解説を聞き、やんばるの森特有の景観を林冠観測用タワーから眺めます。すごい景観です。同行の職員さんが、シリケンイモリやヤンバルナメクジなど次々に生き物を見せてくださるので、タワーに登る順番待ちの間も学生たちはとても楽しそうでした。

その後、世界自然遺産地域にも指定されている、与那フィールドの中でも伐採履歴のない森に移動します。6070年生だったタワー周辺の森との違い、高齢の太い木が生えている森を体感し、ケナガネズミやノグチゲラなどの希少種の生息を可能にする森の特徴を学びました。ここでは、リュウキュウヤマガメも見ることができました。

午後はやヤンバルクイナ生態展示学習施設・クイナの森でヤンバルクイナを、東村のふれあいヒルギ公園で、マングローブ林をじっくり観察しました。ヒルギ公園では、マングローブを構成する3種のヒルギの特徴や生育できる環境の違いによる3層構造を学び、ミナミトビハゼやシオマネキなどの観察を楽しみました。何種類のカニを見たか、競い合って盛り上がる一幕もありました。

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4日目:922

実習のまとめの時間。3日間を通じての気づきや学び、感想を全員に発表してもらいました。今回は文系・理系の様々な分野を専攻する学生が集まりましたが、やんばるの森と人のかかわりについて考えるだけにとどまらず、この実習での学びを自身の専門領域にどう生かしていくかという視点の感想も多く、ワクワクしっぱなしの1時間半でした。そして、講義やフィールドワーク中にいろいろな視点からの質疑応答で盛り上がったので、森林のことをよく知る学生にとっても、フィールド科学は初めてという学生にとっても、お互いにとてもよい刺激になったようでした。幅広い学生たちに対応した講義・解説を用意し、学生たちからのひっきりなしの疑問に答え続けてくださった高嶋先生・松本先生、連携校からお越しいただいたみなさまのサポートのおかげです。本当にありがとうございました!


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最後に、サポートしてくださった琉球大学の職員の皆さま、TAさん、ありがとうございました!そして、食べるのに夢中で()、ほとんど写真を撮りそびれましたが、郷土料理のフーチャンプルーや、毎朝ご用意くださったドラゴンフルーツ、美味しかったです。それに、せっかく沖縄まで来たのだからと組み込んでくださった海遊びも、学生たちのいい思い出になったことでしょう。

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琉球大学での他の森林実習については、このブログ内の記事・琉球大学公開森林実習「亜熱帯林体験実習」でも紹介されています。違った視点で書かれているので、よろしければご覧ください。


2023年10月10日火曜日

信州大学公開森林実習「自然の成り立ちと山の生業」に参加してきました


中川研究林 技術職員 高橋悠河 

202395日から98日に信州大学農学部伊那キャンパス農学部付属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)西駒ステーション、手良沢山ステーションで行われた公開森林実習「自然の成り立ちと山の生業実習」に技術スタッフとして参加しました。

信州大学 農学部 伊那キャンパス 正門

1日目:95

13時集合。信州大学や静岡理工科大学、京都大学から3名の学生が参加しました。
実習ガイダンス後は信州大学演習林の紹介と中部山岳の里山に関する講義でした。
時代が進むにつれ、主要な資源だった木材は、利用が盛んになる一方で、資源量は減少傾向にありました。その後育成林業が発生し、農村地帯で管理されてきたものが里山であるということでした。その後は2日目に使用する地図等の準備を行いました。


「中部山岳の里山」講義の様子

2日目:96

ハイエースに乗り登山道入口へ移動。木曽駒ケ岳、桂小場ルートを標高2000m付近にある大樽小屋まで登山しました。途中、小雨に降られたため合羽に着替えました。沢下りをする場所もあり足元に注意しながらの登山でした。

ハイエースにて移動

薪炭や緑肥として利用するために柴を刈った場所や育成林業としてヒノキが植栽されたものの手入れが行き届かなった場所、登山道の左右で山の持ち主が民有林と国有林で異なり、その利用の歴史が薪炭林と素材生産林とで違うため、下層植生が全く異なる場所など里山利用の痕跡をたどりました。

前日の講義、中部山岳地帯における木材利用の歴史を聞き、実際に利用された痕跡が残る場所へ赴くという実習の流れは、知識と経験を結びつけるという点において非常に有効であると感じました。

手入れが遅れたヒノキ林

薪炭林利用地跡 直径の細い木が多い

←民有林              国有林→

民有林(左):ササに覆われている 薪炭林のため林床が明るい
国有林(右):苔があり稚樹が更新している 常緑針葉樹が優勢しており、林床が暗い

落下注意!


3日目:97

スパイク長靴等の山歩きのための道具を用意し、ハイエースで手良沢山演習林へ移動。
午前中は演習林の人工林の育成に関する講義とチェーンソーの利用方法の講義の後、実際に丸太切りと薪割体験を行いました。
だんだんと腰が入り、パカンッと薪が割れると皆楽しそうでした。


道具を準備している様子

「山の生業」講義の様子


パカッといい音が響きます


薪割木はすごいパワーでした


午後は森林調査でした。
10m×10(斜面のため実際は12m*10)0.01haの区画を造り、その区画の中にある木の胸高直径(地面から1.2)を計測しました。計測した木の数を100倍することで1haの中にどれだけの密度で木が生えているかを知ることができます。

造った区画、傾斜は36°もありとても急です


胸高直径を測っている様子



4日目:9月8日

最終日は前日に計測したデータの解析、アンケートの作成、修了式を行いました。
また、宮本裕美子助教授より菌根菌についての講義があり、時間に余裕があったため、私から中川研究林で行われている研究や業務についてお話させていただき、全日程が終了となりました。

データ解析の様子

一部小雨に振られましたが、おおむね天気は良く、無事実習を終えることができてよかったです。参加人数が少なめでしたが、その分密度の濃い実習を過ごしていただけたのではないでしょうか。

今回ご担当いただきました小林元教授、荒瀬輝夫准教授、宮本裕美子助教授、TAの皆様ありがとうございました。


2023年9月21日木曜日

琉球大学公開森林実習「亜熱帯林体験実習」2

実習2日目後半!

続きましては琉球大学の松本先生による研究フィールド紹介です。

実はここで始めて琉球大学の与那フィールドの森林内部に入りました。
松本先生は森林水文学や森林生態学がご専門で、世界各地で研究してきた方です。与那フィールドでは1棟の気象観測タワーを管理しており、温湿度・風向風速・光・などの気象状況や光合成量・炭素吸収量など森林内での炭素循環などを研究していらっしゃいます。
15mのタワーの上からは広大なやんばるの二次林が一望できました。 
台風時には風速50m以上を観測することもあるそうです。

タワーの下には50m✕50mの調査プロットがあり、3年おきにすべての樹木の毎木調査を行い、成長量・種構成のモニタリングを行っているそうです。
沖縄の森の大部分は戦後の復興時期に強度の伐採が入り、その後の天然更新による二次林が広がっています。

林内で見つけた巨大なヤンバルヤマナメクジ

かわいらしいキノボリトカゲ
 

琉球大学公開森林実習「亜熱帯林体験実習」1


 北海道大学中川研究林 技術職員の間宮です。
2023年8月21日~24日にかけて、琉球大学農学部付属 亜熱帯フィールド科学教育研究センター 与那フィールドにて3泊4日で開催された公開森林実習「亜熱帯林体験実習」について参加してきたのでご紹介します。

この実習は沖縄やんばる地域の亜熱帯林の動植物を観察し、どの様にヒトと共生しているのか(いくのか)を学ぶという内容でした。
実習は公開森林実習として行われ、琉球大学、山形大学、京都大学、京都府立大学から11名の学生が参加しました。

 

2023年4月19日水曜日

大規模魚類調査@苫小牧研究林

 苫小牧研究林で春と秋に実施しているビッグイベント「大規模魚類調査」を4月3日から7日にかけて幌内川で実施しました。
この調査は苫小牧研究林を流れる幌内川で実施されており、5km以上の調査区間にいる魚を捕獲して個体を識別して身体測定やDNA試料採取などを行うものです。
今回は北大から3名、他大学から3名が参加してくれました。

まずは、採捕調査です。電気ショッカーという機械で川に電気を流し、しびれた魚をすくいます。捕獲に関して特別な許可を取った人たちだけが実施できます。

捕獲した魚はトラックに設置された計測基地に運ばれ、各種計測が行われます。カメラを構えているのは北海道新聞の記者です。
(本調査は、苫小牧研究林の名物になっているのでマスメディアの取材を受けることがあります)

こちらは写真撮影の様子です。黒いボックスの中に魚を入れ、写真を撮影します。
スタッフ御手製のボックスにはきれいに撮影するための工夫が施されています(詳細は企業秘密)

魚の体重はキッチンスケールで測ります


データは記入用紙に記録します。この記入用紙も創意工夫が凝らされており、ミスが生じてもすぐに発見できます。

調査終了後、参加者にはデータ分析もしていただきました。写真はデータ分析結果のお披露目会です。自由闊達な議論もありました!

調査期間は5日間でしたが、参加者6名はそれぞれ無理のない日程で参加していただきました。次回は9月下旬から10月にかけて実施の予定です。

2023年2月7日火曜日

森林研究フィールドトレーニング「森林植生の養分吸収機能」

 8月29日~9月1日にかけて中川研究林で開催した 森林研究フィールドトレーニング「森林植生の養分吸収機能」について報告します。

初日、まずは北海道北部の森林を観察することから。
葉や幹を見つつも、本プログラムの中心は地下部の根です。
いろいろな植物の根を掘って、根のかたちに違いがあることを観察しました。

林内で土を掘り、根の観察をしました。
今回、信州大学理学部の牧田直樹先生にもご参加いただき、根への熱い想いを語っていただきました!

こちらは地上部の様子。

地下には根(細根)が張り巡らされています。
細根による養分吸収を測定するため、傷をつけないように慎重に細根を掘り出します。

きれいに細根がとれました!

このあたりの森林はササで覆われています。ササ藪の中で蚊の大群にもめげずにがんばっています。

細根を窒素溶液に浸け、一定時間後の濃度差から養分吸収速度を測定しました。
フィールドが実験場です。
今回、数種類の樹木とクマイザサを対象に調べました。

フィールドから戻り、化学分析も体験しました。
フィールド半分、化学分析半分、どちらにも真剣です♪
どのような結果が出るかワクワクです!

根をスキャンし、形態(根の細かさや密度など)を評価します。


最後に、期間中に取ったデータをまとめ、発表しました。
初めての研究体験でしたが、積極的に、そして楽しみながら根の機能についてしっかり考えました。
お疲れさまでした!


(おまけ)
パンケ山からの中川町方面の眺めです。
遥か彼方に日本海が輝いていました。
夏の終わりの穏やかな光景です。



2022年10月14日金曜日

森林フィールド講座・北海道編が開催されました(3・4日目)

 森林フィールド講座・北海道編の3,4日目の様子です。

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3日目:921

午前中は中路先生によるプログラム、「ドローンで森林を測る!」。

さまざまな分野でリモートセンシング(遠隔探査)が活躍していますが、人工衛星による森林のバイオマス(生物量)予測もそのひとつです。森林バイオマスは地球温暖化対策などの国際的な取り決めにも影響を及ぼす重要な指標ですが、予測誤差が大きいなどの課題があります。北大研究林はその課題解決に向けての取り組みに参加しており、そのひとつがドローンを使ったリモートセンシングによる森林観測精度の向上です。このプログラムでは、ドローンで測定された樹高と森の中で自分たちが計測した樹高とを比べて、リモートセンシングの誤差とその要因を調べました。

北海道内でも珍しい泥炭湿地に広がるアカエゾマツの純林にて。
泥炭湿地の特性や過酷な環境で生きるアカエゾマツの生態を学び、樹高測定へ!

ドローン飛行の実演に興味津々の受講生たち

午後のプログラムは林業。

まず、吉田先生から雨龍研究林が取り組んでいる新しい林業について、お話を聞きました。ササが生えていると森が育たないため、道北には無立木地が点在しています。研究林は、ササを取り除くことで種子散布能力の高いシラカンバなどの天然更新を手助けし、効率的な木材生産につながる森づくりに関する研究も行っています。大型の重機を使ってのササ刈り・土の掻き起こしの現場を見学しながら、道北ならではの新しい林業の可能性を学びました。その後は、技術職員さんの指導を受けながらの林業体験。トドマツの植林、チェーンソーを使っての木材加工、薪割りなどを行いました。受講生たちは、鍬や斧などの昔ながらの道具の扱いに苦労しながら、楽しそうに活動していました。

この日は道中、ひょこり現れてバスの前に座り込むという謎の大サービスで、キツネも受講生たちを楽しませてくれました。そして、北大研究林はヒグマの生息地でもあります。実は、林業体験中にヒグマにも出会いました。こちらに驚いてすぐに逃げる様子はなく、皆伐地を悠々と横切るではありませんか。数百メートル以上離れているとは言え、一同に緊張が走ります。同時に、野生のヒグマをこの目で見ているという静かな高揚感にも包まれました。でも、こういう場合は安全を最優先します。その後は、残念でしたが予定していた重機体験や伐採体験を断念し、安全な庁舎付近まで戻って実習を継続しました。

どんどん近づいてくるキツネ

4日目(922日)

実習最終日。これまで、針広混交林、ミズナラの純林、アカエゾマツの純林といろいろなタイプの森林を見てきましたが、この日は河畔林を散策しハルニレやヤチダモ、ケヤマハンノキなどを観察しました。川では、運よくイトウを見られた受講生もいたようです。

河川生態系における倒木の重要性についてのレクチャー中

実習のまとめの時間には、4日間で興味を深めたことなどを一人一人が発表しました。この実習はフィールド初心者向けに設定されていましたが、実は受講生のみなさん、鳥・魚・昆虫・植物などすでに自分の得意分野を持っている人も多く、興味深く発表を聞かせていただきました。発表の場にも慣れていて堂々と自分の興味を披露していたことも印象的でした。