2015年8月19日水曜日

森林研究・フィールドトレーニング「昆虫―植物相互作用の生態と進化」レポート

雨龍研究林の内海です。

今年第一回目となる企画「森林研究・フィールドトレーニング」が雨龍・中川・天塩研究林にて開催されました。その中で私は、7/27~7/30に「昆虫―植物相互作用の生態と進化」コースを雨龍にて実施しましたので、その様子をレポートします。


このトレーニングプログラムの特徴は、全国の学部学生を対象とし、仮説の設定からその検証と結果のプレゼンまでの実際の研究プロセスを自ら行うというところにあります。
学部生が試験期間中である日程にぶつけてしまったのはこちらの重大なミスでしたが、にもかかわらず、この期間に参加してくれた勇者が1名いました!東京農工大3年の青山悠さん。

初日は、まず自分の目と興味のままに雨龍研究林の森を探索してもらいました。こちらからは特にテーマを与えずに一緒に沢に入り、藪をこぎ、捕虫網をふり、時折その場その場で生き物の解説をするというスタイルでした。(フィールドでの「自らの気づき」が研究の出発であり、それに基づいて研究を進めることこそが大事と私は信じています。)

青山さんがこの実習に参加してくれた動機は、生物間相互作用と昆虫の進化や多様性とのかかわりに興味をもっていたから。初日の探索の中で、沢山の動植物に興味をもった青山さんでしたが、特に気になったのがはじめて観察したという「カメノコテントウ」と「エゾアザミテントウ」でした。前者については、沢でヤナギの上の昆虫を観察しているときに発見し、「デカイ!」ことに驚きました。これらは植食性甲虫であるハムシ類の幼虫を捕食します。確かによくいるテントウムシより一回り大きめ。一方後者は、多くのテントウムシとは違って植食性。他の動物を捕食せず、植物の葉だけを食べ続けます(注1)。幼虫も成虫もちょうど沢山出現しチシマアザミの葉を食べているときでした。ここでの驚きは「同じテントウムシなのに植食!?」。両種とも「テントウムシ」というような色と形をしています。にもかかわらず、まったく異なる食性を持っている・・・。なんかおもしろい・・・。さらにこれらを観察する中で、カメノコテントウはきわめてよく動き回っているのに対し、エゾアザミテントウはじっとしてぜんぜん動かないという行動の違いがあることにも気がつきました。

オノエヤナギの上にいるカメノコテントウ

エゾアザミテントウの成虫


エゾアザミテントウの幼虫
同じ科に属している近縁種ながら肉食と植食という完全に異なる食性にシフトして進化してきたという現象に興味を抱いた青山さんは、ここで問いを設定しました。見た目に大きな違いがなくても、この進化の過程で顎の形態と消化器官の構造において餌生物に特化した特長を獲得し、劇的な違いを有するようになっているのではないか。この問いに取り組むことをこの実習の目的としました。

方法はいたってシンプル。この2種のテントウムシをフィールドに探しにいってできるだけサンプルを収集する。そして、実態顕微鏡下で解剖してデジタル撮影し、器官サイズの計測などの画像解析を行う(注2)。
とはいえ、いざやってみるとそう簡単ではないということに気づきます。
「いざとろうとするとなかなかサンプルが見つからない」
「違いがあったとして、捕食型・植食型の違いによるのか?種の違いというだけではないか?」
「『見た感じなんか違うカタチ』をどうすれば客観的なデータとして表現できるか?」

毎日担当教員とディスカッションをすることを通して、研究計画やその日得られた結果の解釈について主体的に深めていく、というのもこのプログラムの大きな特徴です。



限られた時間でしたが、捕食性であるナナホシテントウも採集して捕食者に共通する形質を抽出することを試みたり、計測すべきポイントを考えたり、組織片の色合いから強度や構造を推定しようと考えて画像からRGB値を抽出したり、などなど工夫して取り組みました。そして、以上の結果をグラフ化してまとめ、最終日には考察も加えた研究成果発表に取り組みました。大変興味深いデータと発表でした。


「昆虫―植物相互作用の生態と進化」コースは、8/10-14にも第二弾を実施しました。そのレポートはまた次回に~♪



注1・・・アザミテントウの属するマダラテントウ亜科は、カイガラムシ捕食性のテントウムシグループから二次的に進化したと推定されています。テントウムシ科のうち植食も行うグループはいくつかありますが、完全に植食にシフトしたのはマダラテントウ亜科のテントウムシだけです。「緑の世界仮説」というものがありますが、地上の大部分が緑に覆われ、なぜ食い尽くされないのか、という問題は古くから生態学の主要な命題の一つです。捕食から植食にシフトすることに伴う複合的な形質の変化は、植物資源の特徴(たとえば、植物を利用するために必要な性質は何か、植物は食い尽くされるような与し易い資源ではないのではないか)について示唆を与えてくれます。

注2・・・当研究室では、昆虫―植物相互作用系を中心にその生態と進化に関する研究を進めています。材料はさまざまです。分子実験、個体の行動・形態の測定から、個体群や群集、多様性までのさまざまな階層での研究アプローチをつないで進化プロセスと生態プロセスを統合的に理解することを強く意識しています。

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