2016年10月12日水曜日

森林研究・フィールドトレーニング「分光イメージングによる樹木生理生態機能の評価」レポート

苫小牧研究林の中路です。
今回、8月16-19日、9月27-30日の2回にわたって森林研究・フィールドトレーニング「分光イメージングによる樹木生理生態機能の評価」を開催しました!
私が担当するこのコースでは「分光観測」という普段聞きなれないリモセン手法の基礎と応用について、座学&フィールドの両面から学びます。今回、千葉大、信州大、北大から4名の学生が参加し、近接観測による樹木研究の一端を体験しました。

初めに、学生の興味の調査対象を聞いたところ、「森林」「水草」「山火事」「根」…と、思いのほかバラエティーに富んでいます。学部2年生と3年生、やる気にあふれているのが印象的でした。


どちらの回でも、まず初日は林冠クレーンのゴンドラに乗って樹木葉の観察です。
室内実験で使用する樹種ごとの切り枝や葉を採取しました。

第一回では緑葉、第二回では紅葉・黄葉も。学生達はヤマブドウやオオバボダイジュの実に興味津々・・・。


■第一回トレーニングコース(8月)
第一回の学生2名は、葉の連続分光反射の計測と解析をメインにトレーニングを開始しました。
 

外は暴風雨、座学と室内実験をメインに頑張ります。

二日目は、講義を交えながら、クレーンで採取した14樹種の切り枝を対象に、分光放射計を使った個葉の分光反射・透過・吸収の基礎計測を練習しました。続いて、ハイパースペクトルカメラによる分光イメージングも体験です。2人とも画像解析は初めてでしたが、手計算中心のスパルタメニューを意欲的に?こなしてくれました。
さらに、分光計測した葉の光合成速度や、色素組成、CN濃度を実験室で分析して、分光反射情報からの予測手法やその精度について考察しました。

ハイパースペクトルカメラで撮影したオオバボダイジュのCCI(Canopy Chlorophyll Index)画像。
CCIは窒素濃度とも関係するので、ざっくりと数値化してみました。直接的評価ではないので扱いには注意が必要ですが、古い葉や葉脈で低い値を示しています。切り枝の光合成速度との関係が得られる樹種とそうでない種もありました。
夜遅くまでデータと画像解析を頑張っていました。

三日目には、画像解析のまとめの後、少しフィールドに出ることができました。近赤外カメラを持って、樹木細根の撮影を行いました。触感と色調から枯死していそうな細根と比較的若い細根での反射率バランスの違いを可視化しました。

最終日は発表です。第一回の学生には、「トレーニングコースで学んだこと・実験結果のまとめと、今後の自分の研究のなかでどう活用するか」について発表してもらいました。
樹種構成の違いや樹木の生育環境の評価を通した森林管理への応用、水中の植生評価への利用といったテーマで議論をしました。

発表の両名。台風の影響であまりフィールドに出られませんでしたが、しっかり学んでくれました。
 

■第二回トレーニングコース(9月)
第二回の学生は、初日に黄葉・紅葉が始まった葉を採取し、二日目から、デジカメ撮影による色素変化の解析を行い、分光観測・リモセンの活用について考察しました。

フェノロジー段階の異なる樹木葉の分光観測とスマートフォン画像を使った植生指標画像。

まず、デジタルカメラの画像で計算した指標値で生葉と枯死葉の違いを数値化しました。なかなかクリアな結果が出ています。次に、実際の葉内クロロフィル濃度や含水率を計測して、レッドエッジや水分吸収帯の反射スペクトル、それらを用いた植生指標値との高い関係性を示しました。


三日目はフィールドでの応用です。一人は北米の国立公園を見学した際に撮りためた山火事跡地の画像解析を行い、一人は苫小牧研究林の森の中で、9樹種の樹木の非同化器官(幹や根)の樹種間差を反射スペクトルの視点で調査しました。

掘り起こした樹木根と観測・解析風景。日が暮れるのも忘れて観測に没頭し、夜も解析となりました。


最終日は発表です。各自の解析結果を精力的に発表してくれました。

山火事画像の解析では、更新に伴う景観の違いが数値情報でうまく抽出できていました。今回はデジカメだけの解析でしたが、メカニズムやリスク予測など、既存研究を参考にした課題も見えてとても良かったです。
また、反射スペクトルを用いて樹木根の可塑性や樹種間差を評価しようとした実験でも興味深いデータが示されて、
今後に期待が持てる試行になっていました。


■おわりに
どちらのフィールドトレーニングコースも参加学生の姿勢がアグレッシブでした。専門性の違いに苦しみながらも行動し、考え続けたことが印象的で、今後の展開が楽しみです。それぞれの学部に戻ってからも、科学的興味を深化させ、いずれまた北大研究林で一緒に研究できれば、と期待しています。



・参考
中路研究室のHP http://nakaji-hokudai.jimdo.com/

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