2018年8月19日~22日(3泊4日)に開催された琉球大学の公開森林実習「亜熱帯林体験実習~亜熱帯林が広がるやんばる地域での人と自然の共生~」に拠点事業の一環として参加しましたので、ご紹介します。
北大研究林は、全国の大学研究林(演習林)と連携しています。
そのひとつ、琉球大学の公開森林実習に参加してきました。
実習の舞台は、沖縄本島北部「やんばる」に位置する、琉球大学与那フィールドです。
「公開森林実習」ということで、全国6大学から10名の学生さん(スタッフとして琉大の学生さんも3名)が集まりました。
賑やかです。
よろしくお願いします。
公開森林実習は、全国の大学演習林で開講されている、他大学生の参加が可能な実習です。http://www.fsc.miyazaki-u.ac.jp/foe/
16大学の農学部間の協定で、単位互換の制度もあります。
協定校以外の学生でも受け入れ可の実習もありますので(「亜熱帯林体験実習」もそうでした)、チェックしてみてください。
北大での実習もありますよ!
今回、初日は夕方集合。
与那フィールドの高嶋先生が、亜熱帯の特徴や、やんばる地域の森林・動植物についてじっくり説明してくださいました。
この実習の大きなテーマのひとつが「自然との共生」。
やんばる地域は、2016年に国立公園に指定され、また、今年度の登録は見送られましたが、世界自然遺産を目指しています。
その、ど真ん中にある演習林とは、すばらしいですね。
私も普段、森林の利用と保全について研究をしているので、このあとのプログラムがとてもたのしみです。
北海道との大きな違いは、歴史・文化を含めた、人と自然との「近さ」でしょうか。
その「距離」次第で、共生のしかたも変わるはず。どんな問題があり、解決策があるのでしょうか。
受講生からも、活発な質問がありました。
夕飯後はナイトウォークに出かけました。
(写真がありません。この報告より数段充実している、昨年度の記事をぜひ参照してください)
http://frs-kyoten.blogspot.com/2017/09/no1.html
2日目。
研究林内の林道を散策します。
おもに植生を観察しながら、亜熱帯林を満喫します。
高嶋先生、技術職員の外間さんらが、丁寧に解説してくださいました。
|
優占種であるイタジイ(ブナ科) |
ノグチゲラやケナガネズミ、ヤンバルテナガコガネなど、沖縄固有種の多くが、大径木に依存して生活しているとの説明がありました。
こちらも優占種のひとつである、イジュ(ツバキ科)の花 時期ではないのですが、いくつか開花している個体がありました。 6月に来てみたくなります。 |
リュウキュウマツ(マツ科) マツ枯れの影響があるそうですが、健全な大径木は存在感があります。 |
リュウキュウマツが優占する景観 |
リュウキュウコクタン(カキノキ科) 高級材好きにはたまらない存在です。 これは44年生の造林地。成長には時間がかかるようです。 |
イヌマキ(マキ科) こちらも高級材の樹種。造林は、虫害の影響があり難しいとのこと。 |
ハリギリ(ウコギ科) 高木種では唯一北海道と共通する構成種でした。 (リュウキュウハリギリと分類することもあるそうです) |
ヒカゲヘゴ(ヘゴ科) 木生シダ。形状や模様に見入ってしまいます |
この日の最高気温は32度 北海道では感じられない日射しの強さですが、木陰は意外に快適に歩けました。 学生スタッフの皆さんのサポート体制も充実していて、感謝です。 |
宿舎に戻って昼食の後、午後はまず、沖縄本当北端の辺戸岬へ。 青い空!青い海! |
与那フィールドの里山研究園。
琉大の学生さんが、卒論でとりくんでいるオキナワシャリンバイ(バラ科)の植栽試験地について説明。
樹皮が紬の染料に用いられるそうです。
ここには他にもモッコク(モッコク科:器具材)、ナギ(マキ科の針葉樹:器具材)の試験も行われていました。
マツ枯れの影響など、リュウキュウマツの造林に懸念がある中、付加価値の高い代替樹種の探索はとても重要なテーマだと理解できました。成果を期待しています!
午後、後半のテーマはヤンバルクイナです。
東海岸を南下し、生態展示学習施設をたのしんだ後、夕方、野生の1羽にも会えました。
待つこと15分位、藪の中でしたが、道路から見えるポイントに、われわれが帰るまでずっと佇んでいました。
夕飯は、地元の方々手作りの沖縄料理をおいしくいただきました。
その後、講義と続きます。ハードですが、充実した1日でした。
3日目。
この日は台風19号の進路が心配されたのですが、幸い、雨にも降られず予定通り出発です。
サンゴの白砂の海岸に立ち寄りました。
風が強く波もありましたが、心配したほどではありません。
こんな青空が見えるとは思いませんでした。
その後、環境省の施設「ウフギー自然館」へ。
アクティブレンジャーの佐藤さんに、スライドで解説をしていただきました。
自然館の地図で高嶋先生が説明。 今日から合流してくださった琉球大学の芝先生(手前)にも いろいろ教えていただきました。 |
午後は、与那フィールドに戻り、試験地の見学です |
説明してくださった琉球大学の松本先生 |
前日夜の講義でも詳しく解説してくださったのですが、この森林では
・タワーでの計測による炭素循環は、熱帯林に比肩する
・純一時生産量の高さに比して、蓄積量は多くない
・枯死量、土壌呼吸量がきわめて大きい
・蒸発散量も、熱帯林と同等のレベル
とのこと。
枯死の多さは頻繁な台風の影響に起因しており、分解過程が相対的に卓越することが生物多様性の高さに寄与している、というのはとても新鮮で、魅力的な仮説でした。
タワー上部からの眺望台 |
幹が目立つのがイタジイ。
梢端部の枯死が多い様子がよくわかりました。
タワーを下った後、森林内部での物質循環の調査について。
松本先生の研究室の大学院生が、成長量、リター量、呼吸量(幹・根・土壌)、流下雨量…と順番に説明してくれました。
成果がたのしみです。
毎木調査では、50m四方で40種くらい出現するとのこと。多様性が高いです。
試験地の沢沿いに残る、オキナワウラジロガシ(ブナ科)の大径木。 見事です。 |
芝先生、技術職員の知花さん、外間さん、研究員の知念さんから、興味深いお話をたくさん伺いました。
参加した学生さんともいろいろ話ができました。
(次はぜひ北海道にも来て、日本の森林の幅広さを感じてくださいね!)
翌朝。
名残惜しい最終日です。
この日の午前は、レポートの作成。
毎晩、熱心にまとめた内容を提出してもらいました。
「人と自然との共生」、学生の皆さんはどう感じ・考えたでしょうか。
希少種保全の取り組み、それを観光資源として活用する取り組みを見学しました。
一方で、やんばるの森が、沖縄本島全体の水源をまかなうことも学びました。
私の主要な興味である林業(木材生産)に関しては、
・大径木に頼ることができない
・多様度が高く「量」では特定の樹種に絞ることができない
・マツ枯れの懸念がなお大きく、一方、他の広葉樹などの造林手法は確立されていないものが多い
・風撹乱が頻繁である
などの課題が、よくわかりました。
保全活動と調和させながら、どのように木材需要をまかなうのか…今後の琉大の皆さんの取り組みに注目したいと思います。
亜熱帯の魅力をコンパクトにまとめて体験できたこの実習。
私はすっかり、やんばるのファンになりました。
来年度も、多くの皆さんの参加をお待ちしています。
高嶋先生をはじめ、琉球大学のスタッフの皆さまにはたいへんお世話になり、あらためてお礼申し上げます。
施設もきれいで使いやすく、快適に過ごしました。
どうも有難うございました。
北管理部 吉田
0 件のコメント:
コメントを投稿