2014年1月22日水曜日

南の果てから北の果てに!(琉大造林学研究室@厳冬の天塩、雨龍研究林)

こんにちは、名寄の片山です。気づいたら、もう2014年!名寄はすっかり厳冬期に入り、毎日の最低気温が-20℃を下回る季節になりました。そして、積雪も1m!国内でも有数の寒くて雪の多い場所なんです。

そんな、真っ白で氷点下の道北に、亜熱帯の沖縄に住む琉球大学の方が実習に来られました。今回は、南の果てから来られた皆さんが、北の果ての森での実習を紹介します!


2014年1月15日、琉大造林学研究室から、教員・学生さん7人が北海道に来られました。実習1日目は、札幌から特急に乗り、一気に天塩研究林まで移動です。
天塩研究林では、以前も紹介したカラマツ林のフラックスタワーを見学しました。この研究サイトでは、森林と大気の間でどのくらいの二酸化炭素が交換されているか、つまり、森林が正味、どのくらいの二酸化炭素を吸収(or放出)しているのかといった森林の炭素循環に関する観測が行われています。観測は2001年から始まり、2003年にもともとあった針広混合林を伐採し、その後、カラマツを植林しました。案内は高木林長です!

冬の間、森の中を移動するには雪上車に乗ります!

今回、森の中の移動は、ほとんどが雪上車でした。

雪上車はもちろんのこと、雪を見るのも初めて、という学生さんもいました。
みなさん、歩くのに一苦労・・・。ほら!タワーが見えて来ましたよ!!
このとき、積雪約1mです。かろうじて、スノーシューやかんじきなしで
歩くことが出来ました。

夏の間は、青々としていたカラマツ林とその奥の針広混合林でしたが、

天塩フラックスタワーから撮影。 (2013年6月)

今回行ってみると、真っ白な世界が広がっていました。

天塩フラックスタワーから撮影。(2014年1月)

伐採前、森林は炭素の吸収源でしたが、伐採後に炭素の放出源となりました。しかし、伐採後8年目で再度、炭素の吸収源になったとのことでした。

夏の間、林床を覆っていたクマイザサは、雪の下で越冬しています。ササは樹木の更新にはマイナスの影響がありますが、樹木の栄養である窒素を保持する機能(物質循環機能)という点からは、プラスの効果があることが近年分かってきたようです。

雪の上には、色んな動物の足跡がありました。高木林長の説明の間にも、キタキツネがトコトコトと歩いていました。

最近、琉大演習林内のやんばるの森にもフラックスタワーを立てられたようです。歴史ある天塩のタワーとやんばるの新しいタワー。色々と違うところが多いようで、学生さんたちは自分たちのタワーと比較しつつ、高木林長に質問する、ということを繰り返していました。


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余談ですが、天塩に向かう列車の中で、途中、列車が減速しました。なぜだろうと思うと、車掌さんからの放送がありました。

「現在、列車の前にシカが走っており、この列車はシカと一緒に走っています。」

(ああ、そういうこともあるんだな~)
しばらくすると、列車がついに止まってしまいました。

「現在、シカが走るのをやめてしまいました。しばらくお待ちください。シカをひいてしまったわけではありませんのでご安心ください。」

(うん?シカ・・・、、早くどけいてくれ!中川駅で高木林長が待ってるんだから!!)
そして、またしばらくすると、

「やっとシカが走り始めましたが、まだ、前を走っております。」

(まだ走るの?!!笑 シカも大変だなあ、、)
と、シカと列車の追いかけっこの実況中継をしてくれました!しばらくたって、やっと、シカが線路から降りてくれたようで、列車はもとのスピードに戻りましたが、このために到着時間20分程遅れてしまいました。こういうことは、よくあることみたいです。
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さて、そんなハプニングもありましたが、1日目のメニューを無事に消化し、天塩研究林から名寄まで戻って来ました。名寄に着いたのは20時前。雪がしんしんと降っていて、街はしんと静まりかえっていました。この日は雪が降っていたので気温はあまり下がらず、-10℃程度でした。



2日目は、雨龍研究林にて林内散策をしながら、針広混合樹林の特徴を勉強します!
雨龍研究林は北海道の中でも豪雪地域で、積雪はおよそ2m!ですので、長靴では林内は歩けません。というわけで、山スキーです! 
みなさん、もちろん初めての山スキー!山スキーの板には、ゲレンデスキーの様なエッジがなく、曲がることがとても難しいのですが、板の裏にはアザラシの毛がついていて、坂道でも登っていくことができます。(北大研究林のスキーはとても古いので、アザラシの毛がついていますが、今売られているものは人工物だそうです。)林内はあまり傾斜がないので、普通に歩くだけ。皆さん、すぐにコツをつかんで、ガシガシ歩いていきます!


山スキーで林内散歩です。
吉田林長による森の解説。
天候は晴れ!とても気持ちの良い天気です。この日、案内頂いたのは、吉田雨龍研究林長。トドマツとアカエゾマツの見分け方や、ミズナラどんぐりの豊凶などについて話を聞き、クマゲラの巣を見、ヤチダモの種子がクルクルと落ちてくるのを見、汗だくになりながら、とても気持ちの良いお散歩となりました。

そして、途中の斜面では、スキーの練習の時間!勇気ある男子学生たちが斜面をさっそうと滑りました!初めてとは思えないほど、とても上手に滑っていました。
雨龍研究林の技術職員さんをお手本に、
斜面を滑りぬけます!
森から出ると、夏にはそば畑だったところに雪原が広がっています。とても寒いので、雪の結晶がはっきりしていて、それが太陽に反射してキラキラ輝いていました。写真ではその美しさをお伝えできず、とても残念です。

森から出て、雪原を歩きます。


午後は再び雪上車に乗って、泥川流域の方に足をのばしました。いつもの展望台から流域の植生の変化を眺めます。

ここからは泥川流域全体を眺めることができます。
泥川沿いの湿地林、その周辺に広がるアカエゾマツ泥炭湿地林、
斜面あたりから広がる針広混合樹林帯と、微地形により景観が異なります。

夏にはこの様な感じでしたが、
今回はこの様に、真っ白の世界が広がっています。

展望台からアカエゾマツ純林が広がる泥炭湿地林に下りてきました。ここも夏はササが覆い茂っているのですが、今回は全くササの気配はありません。この冬の景色を見ると、まるで北欧ですね。

冬の泥川アカエゾマツ林。

夏の泥川アカエゾマツ林。林床にはササが繁茂しています。

午後は「かんじき」を履いて森を歩きました。このシンプルな履物が、とっても歩きやすいんです!これまでひんぱんに転んでいた学生さんも、今回は全く転ぶことなく歩いていました!しかも、このかんじきは北大研究林の職員さんの手作りとのこと。木でできているのですが、曲げる技術がとても高度で、今では作れる人がいないとのことでした。

かんじき




3日目は、北大研究林で行われている天然林施業の研究を学ぶため、伐採現場の見学を行いました。ここ道北の森では、伐採は冬に行っています。夏に行うとササが繁茂していて大変なのですが、冬だとササの心配をすることはありません。
と言っても、もちろん、簡単に作業できるわけではありません。先週末に大雪が降ったようで、伐採現場や土場を除雪するのに何日も費やすとのことです。また、積雪が2m程度もあるので、伐採木周辺の雪を掘り起こす必要もあるようです。

もうだいぶ慣れた雪上車に乗り、伐採現場に到着して、技術職員さんから説明を受けます。皆さん、熱心に説明を聞かれていますね。

ちなみに、この日の前日、写真の様にきれいに晴れていたため放射冷却がすすみ、とってもしばれた(冷え込んだ)朝でした。雨龍研究林の気象観測では、-33℃まで下がったとのことです!!
日本の最低気温の記録は、旭川の-41.0℃という公式記録(気象庁観測)がありますが、非公式では-41.2℃という記録もあります。これはまさに、北大雨龍研究林(幌加内町母子里)で観測された記録で、雨龍研究林は国内でも本当に寒い所なんです!


伐採現場で説明を受けます。

さて、今日はこの立派なアカエゾマツを伐採するようです。沖縄からの学生さんということもあり、現場の方々はいつもより気合いが入っているようでした!笑

このアカエゾマツを伐採します。


この大きな木(樹高約30m、胸高直径40㎝)は、たった数分で倒れてしまいました。

数分の間に伐倒されました。重機で土場まで運びます。

そして、重機を使って土場に運ばれ、枝を切り落とし、玉切り(規定の長さに丸太にすること)し、あっというまに出荷される姿になりました。

ベテラン山師に丸太の等級の解説などをして頂きました。

北大研究林では、生態系の保全を含め、持続可能な天然林の施業(伐採・間伐・植栽など木材生産にかかわるおこない)は可能かどうか、という問題について、研究を行っています。本州ではスギやヒノキなど、山全体を一度伐採し、単一樹種を植林する、という「人工林施業」が主流ですが、北大研究林では、もともとあった森(天然林)から少しずつ木を伐って、天然林を維持しながら木材を生産する「天然林施業」を行っています。

天然林を維持しながら木材を生産するためには、どの樹種の、どのサイズの木を、どのくらいの量で、どの様に伐採し、どの様に更新(新しい樹木が生育すること)させるのが良いのか(更新させることが出来るのか)、といったことをきちんと知る必要があります。しかしながら、樹木が成長するのにはとても長い時間がかかりますので、一朝一夕にはその様な問いに答えを見つけ出すことは不可能です。では、どうやって問いに向き合うのか?それは地道に、1本1本の木の成長を測り(つまり、毎年直径を測り)、あるいはひとつひとつの実生(発芽したばかりの植物)を調べ、どういう施業をしたらどんな風に森林全体が成長し、更新するのかを、長い時間をかけて調べていく必要があります。その様な研究を、実際の森林をフィールドに、地道に続けています。

興味のある人は、吉田先生のHPを是非ご覧になってください!



さて、午後はゼミの時間です。今回は琉大と名寄院生とのスペシャル合同ゼミ!琉大の教員の方も含め、琉大の皆さん+名寄の学生さんに研究紹介をして頂きました。これがとっても盛り上がり過ぎて、14時から4時間半も、大幅に予定を延長して議論が繰り広げられました。とても興味深い研究ばかりでした。この後は、琉大・北大の懇親会が行われました。

総勢20名にものぼる合同ゼミ!



さて、最終日はエクスカーション!朱鞠内(しゅまりない)湖にワカサギ釣りです!!朱鞠内湖は日本最大の人造湖で、イトウを釣ることができることで有名ですが、冬にはワカサギ釣りも楽しめます。琉大の学生さんたちががんばってくれ、無事にたくさんのワカサギが釣れました!


朱鞠内湖です。道東の方の雪が少ない地域の湖と違って、
雪の多いこの地方では、氷は薄く、50㎝ほどの深さのみぞれのようなものが
湖面に蓄積されている、という感じです。
大漁!

もちろん、ワカサギは天ぷらにして頂きました!
美味しい~!!


今回は、南の端からはるばる北の端に来て頂きました。気温差なんと、40℃以上!!琉大の学生さんには沖縄出身の人が多く、初めて線路を見た、とか、キッチンの給湯器が何か分からなかった、など、思いもよらないところでびっくりされていたようです。また、宿舎では毎晩「水落とし」といって、水道管が凍結破裂しないように水を地面まで落とす作業をする必要があります(最近の家は気密断熱機能が向上して、その様な必要はありませんが、宿舎は古い建物なので、毎晩水を落とす必要があります)。その様な北の生活も体験して頂きました。


日本には色んな気候帯があり、そこに生育する森林も大きく異なります。やんばるの亜熱帯の照葉樹林と道北の針広混合林。森林の生育の仕方や樹木の種類、そこに生育する生き物も違います。森林施業の仕方も異なるし、そこに住む人間の生活様式も異なります。その様な「多様性」を理解し、沖縄に帰っても、たまには北海道の森に思いを馳せてくれたらいいな、と思いつつ、みなさんを名寄から送り出しました。

次は私たちがやんばるに行きたいな!