飯田さんは、シカの生息密度が昆虫の種や生息数に与える影響を調べています。最近、シカの増加が社会的問題になっていることは皆さんもご存知だと思います。シカが増えるとシカの餌となる植物(特に林床に生えている林床植生)が食べられてしまいます。それにより、昆虫の多様性や数も変化すると考えられます。それを明らかにしようとしているのですね。
では、どうやって調べるのでしょうか?
飯田さんは、色々なトラップを使って、様々な虫を採取しています。
トラップその1:ピットフォール作戦・・・オサムシ、シデムシなどを捕まえる!
いわゆる、落とし穴です。地面を少し掘って、そこにコップなどを設置し、落とし穴を作ります。地面を歩く虫たちは、この落とし穴に落ちちゃいます。とっても簡単なトラップですが、モニタリングサイト1000という全国的な森林調査でも利用されている手法です。このトラップでは、オサムシやシデムシが採れるみたいです。
この白いのがピットフォールです。 今回は調査中ではなかったので、蓋がされていました。 |
トラップその2:ライトトラップ作戦・・・蛾を捕まえる!
今回、同行した調査です。夜間、光に集まる虫を捕まえるためのトラップ。その名のとおりですね。
飯田くんが何やら作り始めました。 |
みるみるうちに、ライトトラップ完成! 真ん中にライトを設置して、集まってきた虫たちは下の方にトラップされます。 そして、翌朝、回収します。 今回のライトトラップの狙いは「蛾」です。 今の時期は、たくさんの蛾が採れるみたいです。 |
トラップその3:誘引衝突式トラップ作戦・・・カミキリムシを捕まえる!
このトラップも自作です。カミキリムシを捕まえます!
上の方のUFOみたいな物体の中に、 カミキリムシが好きなにおいのする誘引剤を入れておきます。 そうすると、フラフラ~っと寄ってきたカミキリムシが壁に衝突して、 エタノールの入った下のごみ箱に落ちて捕獲されます。 |
トラップその4:マレーズトラップ作戦・・・ハチを捕まえる!
今回は残念ながらトラップをかける期間ではなかったので、見ることができませんでした。マレーズさんが考案したマレーズトラップは、テントのような構造で、ハチを捕まえることが今回の目的とのことです。
シカ密度の異なるプロットで、トラップを仕掛ける!
さて、これら4種類のトラップを、シカ高密度区(20頭/㎞2)、シカ排除区(0頭/㎞2)、処理なし区(10頭/㎞2)の3つの種類のプロットにしかけて、虫の種類や数を調べます。今回は、トラップその2のライトトラップ作戦に同行しました。
ここはシカ高密度区です。 この区域は柵で囲まれていて、 研究のために、毎年シカの頭数をチェックして、頭数をコントロールしています。 ここは外の森林に比較すると、シカの生息密度が2倍になるように 設定しているプロットです。 |
ここは、柵外、つまり、何もコントロールしていない森の様子です。 上の写真のシカ高密度区に比べるとシカが少ないので、林床植生が多いですね。 |
左右の違い、分かりますか? 真ん中のポールは、奥まで柵がはってあります。 右側は、シカ高密度区で、柵内には2頭のシカがいます。 左側は、シカ排除区で、柵内にはシカはいません。 林床の様子が全く違いますね。 こんなに林床植生が違うのであれば、生息する虫たちも違うような気がしますね。 |
こちらはシカ排除区、つまり、シカが一頭もいないプロットです。 下層植生がたくさん生えているのが分かりますか? ちなみに、虫はLEDの光には集まってきません。 最近のキャンプ道具は、のきなみLEDを利用しているとのことで、 蛍光灯のランプを手に入れるのが大変みたいです。 |
3つのプロットに3つずつのトラップを仕掛けました。たくさん捕れるかな~??
翌朝・・・
うわー!!!たくさんいるー!!!! |
色んな蛾の種類が捕れました。 綺麗ですねえ~! |
たくさん捕れたのはいいけれども、 蛾の種類に分けて、数える作業が大変です。 昼ごはんも食べず、1日中作業をして、 やっと夜7時頃、終わったみたいです。 この後の同定作業はもっと大変みたいです。 |
虫捕り少年飯田くんは5月はじめからずーっと苫小牧に滞在していて、8月頃まで調査を続ける予定とのこと。もう、日浦研究室の一員のようです。本当に虫が好きで、平日これだけ虫採りしているのに、休日は趣味で研究林外にも虫捕りに出かけているみたいです。(詳しくは、彼のブログ「タイヤキの虫ブログ」をご覧ください!これを見ると、本当に筋金が入っていることがよく分かると思います。笑)
飯田くんに「一番好きな虫は何ですか?」と聞いたところ、「それは答えられません!!!!」と言われてしまいました。でも、特にカミキリムシが好きみたいです。北海道に来て出会った虫で一番好きなのは「オオルリオサムシ」とのことです。北海道に来たのに、オオルリオサムシを捕らないなんて、虫屋さんにとってはありえないことみたいです。笑
ところで、このオサムシ、とっても人気の高い昆虫みたいです。その魅力のひとつに、オサムシの体はとっても綺麗な色をしている、ということがあると思います。「歩く宝石」とも言われているみたいですね。オサムシは飛ぶことができないので、高い山や川があると、移動できずに、その土地固有の進化をとげるとのことです。ですので、日本だけでも約40種(100以上もの亜種)がいるとのことです。
ちなみに、オオルリオサムシは北海道だけに生息するようですが、場所によって体色が異なるみたいです。また、同じ場所でも異なる体色のオサムシがいるみたいです。なぜ、この様に様々な色をもつようになったのか、不思議ですね~。
虫捕りのあとは、データ解析や論文執筆など、研究は道のりが長いですが、どんな結果になるのかとっても楽しみですね!!