学術研究員の風張です。琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド科学教育研究センター・与那フィールドで実施された公開森林実習「亜熱帯林体験実習」に同行しましたので、その様子をご紹介します。
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1日目:8月29日
15時に集合。琉球大学や京都大学、筑波大学から5名の学生が集まりました。ガイダンスの後は、翌日から体験する亜熱帯の森林や人と自然のかかわりなどについての講義。やんばるの森は樹木の成長が遅く、台風の攪乱や人の手による伐採の後60~70年経っても成熟した森林にはならないのだそうです。そのような森と生態系の保全と人の営みをどのように両立させていけるかを考えるのが、実習の大きなテーマです。学生たちは熱心にメモを取りながら聞き入っていました。
夕食後は、与那フィールド周辺の夜の生き物を観察しに出かけました。学生たちは、ただ説明を聞くだけでなく樹上のヤンバルクイナを探したり、道路わきの小さな生き物を探したりと思い思いに楽しみました。様々な生き物を見つけては、現地スタッフの方々に質問して、やんばるの生き物にどんどん詳しくなっていきます。懐中電灯を一斉に消して地上性のホタルがまたたく様子に興奮したり、満天の星空に感激したりと刺激的な夜になったようです。
2日目:8月30日
午前中は前夜歩いた与那フィールド周辺の森の昼間の様子をじっくり観察。琉球諸島の成り立ちと植生との関係、樹種ごとの特徴と地域の人々による利用、それによる生態系への影響、希少な野生動物の保全と森林利用の両立の難しさなど、いろいろな状態の森を見ながら学びます。道中は、やはりたくさんの沖縄ならではの動植物に会うことができました。
午後は辺戸岬経由で琉球大学・里山研究園の見学。辺戸岬の展望台からウミガメやアオブダイの泳ぐ様子を眺めることができ、学生たちは大興奮でした。里山研究園では、生態系を保全しながらやんばるならではの付加価値を生み出す新しい造林について学びました。
ヤンバルクイナ生態展示学習施設では、ヤンバルクイナをじっくり観察できました。その後、近くの集落で野生のヤンバルクイナとの出会いを待ちます。残念ながら出会うことはできませんでしたが、与那フィールドで鳴き声を聞くことができました。夕食後は、農学部の松本先生の講義。やんばるの森における物質循環や植生の特徴について学びました。わたしも北大研究林の紹介などをさせていただきました。
まずは、松本先生の案内で与那フィールドの林冠観測用タワー周辺の森を観察。前夜の講義の内容、微地形による環境と植生の違いを現地で確かめ、それによって生まれるやんばる特有の景観を、高さ15m弱の林冠観測用タワーから観察しました。風はやや強かったものの、十分な安全対策のもとタワーに上り、ここからしか見ることのできない景観を堪能し、とても満足そうでした。
そして、与那フィールドの中でも伐採履歴のない森の観察。ここは世界自然遺産地域にも指定されています!60~70年生だったタワー周辺の森との違いを体感し、ケナガネズミやノグチゲラなどの希少種の生息を可能にする森の特徴を学びました。
午後は河口付近へ移動し、マングローブの観察です。マングローブを構成する3種のヒルギの特徴や生育できる環境の違いによる3層構造を学び、ミナミトビハゼやシオマネキなどの観察を楽しみました。
4日目:9月1日
レポート作成の後、やんばる野生生物保護センター・ウフギー自然館を見学。3日間のフィールドワークで出会うチャンスのなかった動物たちの映像や声を楽しむことができました。また、やんばるの生態系を守る取り組みなどが紹介され、3日間の学びを体系的に整理することができたのではないかと思います。