今回の(このブログ記事の)テーマは”土”です。植物は、生きていくのに必要な栄養や水を土から吸収しているので、なくてはならないものです。では、どこの土にたくさんの栄養が含まれているのでしょうか?また、土の種類にはどの様なものがあるのでしょうか?
というわけで、土にどれだけの栄養があるのかを調べます。もちろん、見るだけでは分かりません。ですので、文明の利器を使って、化学分析をします。土には色んな種類の栄養が含まれていますが、今回調べるのは「窒素」です。窒素は植物にとっては必要不可欠で、必要な量も一番多い栄養素です。今回は色々な面から土に含まれる窒素の量を比較していきます。みなさんも、答えを予想してみてください!
★場所の比較★
森林と牧草地では、どちらの土にたくさんの窒素が含まれているのでしょうか?
今回は、前日に森林(天塩フラックスタワー)からとってきた土と、天塩研究林付近にある牧場の草地から取ってきた土を比較します。
★深さの比較★
土の浅いところ(表層)と深いところでは、どちらの方がたくさんの窒素が含まれているのでしょうか?
今回は0(土壌表面)-10㎝の深さ、10-20㎝の深さ、20-30㎝の深さで土壌を採取しました。
★形の比較★
窒素、といっても、プラスの電荷を帯びたアンモニウム態と、マイナスの電荷を帯びた硝酸態の窒素の2種類があります。どちらの形でたくさん存在しているのでしょうか?
今回は(有機体の窒素は考慮せず)、ふたつの窒素の形を分けて分析します。
分析が始まりました!
採取してきた土壌に薬品を入れ、土壌に吸着している窒素を溶かしていきます。 1時間、土と薬品(塩化カリウム)が入った容器を振り続けなければならないのですが、 5分程度は自分で振って、あとは機械にお任せです♪ |
分析に必要な薬品を5種類作っていきます。 もちろん、「猛毒」の薬品も使いますので、細心の注意を払って作っていきます。 |
土をろ過して、窒素が溶けた水を取り出します。 この水を分析します。 |
どうやって窒素の量を測るかというと、アンモニウム態、硝酸態それぞれにおいて ある化学薬品と反応させることで発色させ、 その色の濃さを調べることにより、目的の物質の濃度を推定します。 |
これが今回の主役、「オートアンライザー」です。 カレはとっても有能なので、全国からたくさんの研究者が 分析するために集まって来ます。 |
さてさて、うまく分析できるかな?! |
分析は機械がやってくれるので、私たちは 全部で13問。教員4人も含めて、分析結果を予想します。 上位者には教員よりアイスをプレゼント!みんな真剣に考えています。 なぜ、その様に考えたかもディスカッションしました。 |
問1:森林と牧草地(0-10㎝)では、どちらの方が窒素含有量が多いでしょうか?
問2:表層(0-10cm)、真ん中(10-20cm)、下の層(20-30cm)のどこの層に一番たくさんの窒素が含まれているでしょうか?
問3:アンモニウム態と硝酸態、どちらの形の窒素がたくさん含まれているでしょうか?
みなさんの答えは決まりましたか?
それでは、分析の結果を見てみましょう!
こたえあわせ!
問1:森林と牧草地(0-10㎝)では、どちらの方が窒素含有量が多いでしょうか?
→答えは、森林です!
これは、とってもびっくりした結果となりました。教員全員、牧草地と答えていました。普通は、牧草地にはたくさんの肥料(つまり窒素)をまくので、牧草地にはたくさんの窒素が含まれているはずなのですが、答えは逆になりました。
今回だけの結果では明確なことは言えませんが、土壌の種類(土性)の違いが効いているのではないか、ということです。牧草地の土は砂っぽかったので、窒素が付着しにくく、流れてしまったのかもしれない、という可能性が指摘されました。また、肥料がまだまかれていなかったのかもしれません。
問2:表層(0-10cm)、真ん中(10-20cm)、下の層(20-30cm)のどこの層に一番たくさんの窒素が含まれているでしょうか?
→答えは、森林、牧草地ともに0-10㎝でした!
一般的に窒素がどのように土壌に供給されるかというと、リター(落葉・落枝・枯死根)の分解や、雨に溶けて土壌に供給されます。そして、窒素は土壌中の有機物に保持されるので、供給場所、滞留場所ともに表層が大きな役割を担うと考えられます。ちなみに、土壌表層に存在する窒素はアンモニウム態が圧倒的に多いみたいです。硝酸態窒素は水に溶けやすいので、より下層に浸透していくとのことです。
問3:アンモニウム態と硝酸態、どちらの形の窒素がたくさん含まれているでしょうか?
→答えはアンモニウム態窒素でした!5倍くらい、アンモニウム態窒素が多い結果となりました。この理由としては、窒素が乏しい環境では、アンモニウム態窒素をめぐって微生物、植物が競争をしており、硝酸に変える働きをする微生物は、その競争において立場的に弱いことや、硝酸態窒素ができてもすぐに使われてしまうためと考えられます。しかし、大都市近くなど工場や排ガスなどから排出された窒素が大気からたくさん降ってくる場所では、どんどん硝化が起こり、硝酸態窒素が土壌中にたまっていくといわれています。
12問中5問正解した学生さん3人が優勝でした!めでたく、アイスをゲットできてました。
それにしても、研究では教科書が言っていることや自分の予想に反した結果が得られることがとてもよく起こります。勉強不足のために間違った予想を立てていたこと、調査や分析の方法が良くないことなどが原因であることもありますが、こういった「意外」な結果から、たまに、面白い研究が生まれたりします。
やっかいだけれども、「どうしてこうなるのか?」を調べていくことに、研究の面白さがあるかもですね!
さて、後半はポドゾルについてです。
ポドゾル、みなさん聞いたことある方が多いと思います。たしか、高校地理で習ったと思います。シベリアなどのとっても寒いところに分布する土の種類のことです。このポドゾル、実は日本にもあるんです!日本ではとっても珍しいポドゾルを見に、浜頓別まで行ってきました!
我らが大林長、佐藤先生です。 土壌の観察には、1mほど土を掘って、断面を作ります。 |
これがポドゾル! ロシア語で「ゾラ」とは「灰」を意味していて、 上の方に見える白い層がまさにポドゾルを象徴する層(漂白層)なんです。 その下の層(集積層)は、アルミニウムや鉄が溶けてたまっているので赤くなっています。 |
色が全然違いますね! 灰色の漂白層(左)、赤い集積層(中)、もともとの土壌(右)です。 |
左のような様々な色が載っているハンドブックを使って、 色を記録していきます。 土壌観察は、色がとっても重要なんですね。 |
でも、そもそもポドゾルって何でしょう?ポドゾルは寒い地域で生成する土壌です。寒い地域では、樹木や草本の落ち葉などがなかなか分解されません。この様な場所では、分解の過程で有機酸という特殊な「酸」が発生します。この酸は、普通は溶けることのない土壌中の鉄やアルミニウムを溶かしてしまいます。そこにたくさんの雨が降ると、溶けた鉄やアルミニウムがどんどん下の方に流されて、沈殿していきます。酸によって鉄やアルミニウムが溶けてしまった層が漂白層で、沈殿している層が集積層です。
では、なぜ北海道でも浜頓別にポドゾルが発達したのでしょうか?それは、夏でもこの地域は冷涼だからです。例えば、私の住んでいる名寄では、冬は-20℃を下回りますが、夏には30℃を超える暑さになります。この様な場所では、夏に分解がどんどん進むので、ポドゾルは発達しません。浜頓別や猿払などのオホーツク海側では、夏でもオホーツク気団の影響を受けて、とっても涼しい場所なんです。(実際、この日は15℃くらいでした。寒かった、、)
この様に、ポドゾルはそこの気候に大きな影響を受けて発達します。そして、このポドゾルに対応した植生が発達し、さらにその植生が土壌に影響を与えます。
今回見学に行った場所では、もともとポドゾルが発達していたと考えられるのですが、砂利採取や牧草地などへの土地利用改変により、多くのポドゾル土壌が消失してしまいました。今回見学に行った場所は、研究のために土壌研究者で土地を買い取り、保全している地域とのことです。
最近では、ササがこの地域にも繁茂するようになりました。ササの落ち葉は分解されても有機酸の供給が少ないため、ササの浸入によりポドゾルがなくなってしまう危険があるとのことです。
土壌にも「絶滅の危機」があるのですね。
最後に、「北海道らしい景色」の場所に来ました。実は、ここは牧草地になったことにより、日本では貴重なポドゾルがなくなってしまった場所とのことです。
そんな、だだっぴろい牧草地とどこまでも続く道路で、青春的記念撮影です!
この1枚を撮るために、何度失敗したことか・・・(ため息)。 |
実習、お疲れ様でした!
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