2025年9月25日木曜日

琉球大学・公開森林実習「亜熱帯林体験実習」

 苫小牧研究林技術職員の荒木です。

2025825-28日にかけて、琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド科学教育研究センター与那フィールドにて公開森林実習「亜熱帯林体験実習」が開催されました。この実習では沖縄本島北部のやんばる地域を舞台に森林にまつわる様々なフィールドを巡ります。この記事ではその様子を紹介させていただきます。

今年は宇都宮大学・筑波大学・静岡大学・京都府立大学・宮崎大学から計14名の学生が参加していました。

 

まずは沖縄へたどり着かなくては話が始まりません。台風シーズンのため少し心配していましたが、無事に那覇空港へ到着。ちょうど甲子園の優勝校が帰着したタイミングだったようで、ものすごい歓声と拍手の嵐に巻き込まれました。

移動日含め、今回の実習は天候に恵まれました。


825             実習初日

那覇からバスを乗り継いで、道の駅おおぎみ「やんばるの森ビジターセンター」に集合後、そのまま慶佐次湾マングローブ林の見学に向かいます。今回訪れた慶佐次川河口域は「慶佐次湾のヒルギ林」として国立公園に指定されています。

 マングローブといえばシオマネキ 

よく耳にする”マングローブ”という単語は海水が含まれた塩分濃度の高い湿地に生育する樹木の総称です。ヒルギ科はマングローブを代表する植物で、慶佐次湾にはメヒルギ・オヒルギ・ヤエヤマヒルギの3種類が生育しています。

谷口教授による解説を受けながらマングローブ林に設置された木道を進みます。学生達は興味深そうにマングローブ林を観察していました。

 マングローブといえば胎生種子 

マングローブ林にはシオマネキやハゼの仲間、アナジャコなどの生物もたくさん生活しています。現地ではシオマネキのオスが大きな片手を振り回している様子も観察できました。ユーモラスな求愛行動ですね。


慶佐次湾を後にして、これから4日間お世話になる与那フィールド管理棟へ。

ガイダンスでは高嶋准教授より今回の実習の主旨について説明がありました。やんばる地域は国頭村・大宜味村・東村で構成される山林の多く残る地域で、その一部は2021年に世界遺産に指定されました。世界遺産と聞くと人の手の入っていない森林を想像しますが、やんばる地域では古くから人が森林と関わりあって生活してます。住民の生活圏世界遺産の森の密接さがやんばる地域の特徴です。

他にも与那フィールドを利用するにあたっての注意事項や食事の当番に関する説明を受けました。

 

夕食でおなかを満たした後はナイトウォークです!

集合時間に玄関を出た途端、早速リュウキュウコノハズクの大きな鳴き声で出迎えられました。あまりにもはっきり声が聞こえるので一瞬BGMを流しているのかと思うほど。ちゃんと野生のリュウキュウコノハズクの声でした。

ナイトウォークに出発!

管理棟周辺をガイドさんと共に生物を観察しながら歩きます。

案内していただいたのはYambaru Greenの皆さん。やんばる地域で自然体験ツアーや生物調査といった活動をされています。

 

ガラスヒバァ 沖縄の方言名がそのまま和名になっています


2時間弱のナイトウォークを終え、管理棟前へ帰ってくると再びリュウキュウコノハズクがお出迎え。どうやら管理棟前のセンダンの木に留まって鳴いているようで、全員興味津々で樹上を見上げていました。

8月26日 実習二日目

二日目は与那フィールドの天然生林に設置されているタワーサイトの見学から始まります。

いよいよやんばるの森の中へ足を踏み入れます!

 

森林の中を進んでいく参加者たち


森林生態・気象観測タワー 高頻度で台風や強風に見舞われる沖縄でタワーを維持しているのはすごいですね 


タワーサイト周辺は戦後に伐採の記録を持つ森林で、古い樹木でも樹齢は70年ほどです。

観測タワーによる気象観測のほか、毎木調査区やリタートラップが設置されており、林相がモニタリングされています。

 

林床を歩いていたシリケンイモリ 

午後からはヤンバルクイナ生態展示施設を訪問しました。

ヤンバルクイナは1981年に記載されたやんばる地域にのみ生息する飛べない鳥です。かなり最近発見されていたことに驚きました。ヤンバルクイナは人間活動による生息地分断やロードキル、マングースやノネコによる捕食により個体数が減少していました。

マングースは20249月に奄美大島で根絶宣言が出されましたが、沖縄本島にはまだ生息しています。大宜味村塩屋から福地ダムの福上湖を経て大泊橋に至るライン(SFライン)より北部での完全排除を目的として、柵の設置や捕獲といった取り組みが続いています。

サービス精神旺盛なヤンバルクイナのクー太くん

これらの取り組みの成果から、ヤンバルクイナの個体数は増加傾向にあるようです。

実習中にもたびたびヤンバルクイナの鳴き声を聴いたり、足跡を見る機会がありました。

 

次は与那フィールド内の世界遺産に登録されているエリアに足を踏み入れます。

午前中に訪れたタワーサイトは第二次世界大戦後に皆伐されている二次林でしたが、ここは皆伐の記録が無いより林齢の高い森林です。午前中に見学したタワーサイトの天然生林も立派でしたが、このエリアにはより大きな樹木が存在します。70年ほどでは完全には再生していないようです。


イタジイ(スダジイ)の大径木と技術職員の上原さん

余談ですが、上原さんが右手に持っている木の棒はハブを探知するためのものです。森林内を歩く際は琉球大の技術職員や学生TAの方々がこの棒で前方を探り、ハブをあらかじめ察知してくれています。

 

オキナワウラジロガシ(上)とイタジイ(下)の堅果 

夕食・朝食は参加学生が班ごとに持ち回りで調理しています。今日の夕食はタコライスでした。


おいしくできたタコライス

夕食後、高嶋准教授、谷口教授による研究紹介が行われました。荒木からも北海道大学の研究林について簡単に紹介させていただきました。来年は北大の公開森林実習に来てくれると嬉しく思います。

 

827             実習三日目

高嶋准教授の案内で与那フィールド管理棟周辺の林道観察を行います。一日目の夜にナイトウォークで歩いた場所ですが、明るいときに観察するとまたいろいろなものが見えてきます。

 

沖縄といえばシークワーサーのイメージですが、国頭村ではタンカンを多く栽培しているとのこと。他にも、生垣として利用されているイスノキや、琉球王国時代より建材として重要視されてきたイヌマキなど多様な樹種が様々な方法で利用されています。他にもガジュマル・アカギ・ヒカゲヘゴなどなど、やんばる地域で身近な植物を利用や文化を交えて紹介していただきました。なにせ種数も量も普段見ている北海道の森林とは比べ物にならないほど多く、森を見ているだけで圧巻です。

高嶋准教授に解説していただきます

準絶滅危惧種のアオミオカタニシ。
生垣のイスノキにたくさん付いていました。
 

午後は里山研究林での広葉樹造林地と針広混交林化の進むリュウキュウマツ人工林を見学しました。広葉樹造林地ではオキナワシャリンバイやモッコク、ナギといった樹種が栽培されています。


里山研究林の広葉樹造林地

沖縄でのリュウキュウマツ造林はマツ枯れの発生により衰退し、現在ではその多くが針広混交林になっているとのことでした。ここでは伐採方法を試行し、森林保全と林業のバランスという課題に取り組んでいます。

 

三日目の最後に沖縄本島最北端の辺戸岬に立ち寄りました。

この日は空も晴れ渡り、海の向こうに鹿児島県の与論島の島影も見ることができました。

辺戸岬からの光景。サンゴ礁が見えます。

8月28日 実習最終日

最後はまとめのレポート作成の時間です。実習を通して得たものや感じたことがきっと沢山あったのではないでしょうか。

レポート作成中 

今回の実習は比較的天気にも恵まれ、充実したプログラムを体験することができました。参加者にとっても亜熱帯林を観察し、森林と人間の関係を再考する貴重な機会になったと思います。

終わりに、今回ご担当いただきました琉球大学の教職員のみなさま、学生TAのみなさまのサポートに感謝を申し上げます。

2025年2月13日木曜日

森林研究・フィールドトレーニング「ササの一斉開花・枯死が生態系・森林管理に与える影響」

 

2024828-30日に中川研究林で行われた森林研究・フィールドトレーニング「ササの一斉開花・枯死が生態系・森林管理に与える影響」について報告します。北大と信州大から2名の学生が参加してくれました。

 

道北では、2022-2024年にかけてササ(クマイザサもしくはその近縁種)が大規模に開花・結実し、その後枯死しました。このような大規模なササの一斉開花・枯死は生態系の様々なプロセスに影響すると考えられています。このプログラムでは、このササの一斉開花・枯死が生態系に与える影響について、ササが開花・枯死した現地を観察しながら、どのようなアプローチで探求できるかを考えました。

 

1日目は、中川研究林内の各所をめぐり、森林全体の様子、開花していないササの様子を見学したのち、2023年にササが一斉開花・枯死した場所、2024年に一斉開花した場所を見学しました。また、実験的にササを刈り払うことで、ササがいなくなることでおける生態系への影響を検証している試験地を見学しました。さらに、1960年代にチシマザサが一斉開花・枯死した後にその後の植生の変化がモニタリングされている場所(写真)も見に行き、ササが開花・枯死するこの植生への長期的影響についても議論しました。最後に、参加者で議論し、2日目にどのような調査をするかを考えました。その結果、2016年以降にササを刈り払い続けてササが消失している試験地で樹木の実生を調査することになりました。

2023年にクマイザサが開花・枯死した場所の見学

1960年代にチシマザサが一斉開花枯死した場所。今はもう背丈を超えるチシマザサが群生している



2日目は、前日に決めたササ刈り払い試験地で樹木の実生調査を実施しました。2m×2mの調査区を2016年からササを刈り続けてササが消失した場所と、ササを刈らずに残っている場所に3か所ずつ設置し、調査区内の樹木の実生の数を樹種別に数えました。ササがある場所には樹木の実生はほとんどありませんでしたが、ササ刈り区ではトドマツ、ハリギリ、イタヤカエデ、ダケカンバなどの実生がたくさん生えていました(写真)。中には、樹種がわからない実生もあったので、室内に戻ってから図鑑などで調べました。

実生調査の様子。林床には無数の樹木の実生が生えていて、数えるのが大変でした



3日目は、参加者2名で協力して、2日目の調査結果を入力・集計し、発表をしてもらいました。樹木の実生更新にとってササの存在の影響が非常に大きいこと、ササがない場所でも樹木の実生の数や種組成は異なっており、光環境などの環境の違いが影響したのではないか、といったことを考えてもらいました。

3日間、お疲れさまでした!

発表の様子。短い時間でよくまとめてもらいました


担当:鈴木・福澤(中川研究林)